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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)48号 判決 1998年4月15日

東京都千代田区丸の内2丁目2番3号

原告

三菱電機株式会社

代表者代表取締役

北岡隆

訴訟代理人弁理士

竹中岑生

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

堀川一郎

遠藤政明

及川泰嘉

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成7年審判第9613号事件について、平成9年2月6日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年11月7日、名称を「表示装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、特許出願(特願昭63-280592号)をしたが、平成7年2月27日に拒絶査定を受けたので、同年5月8日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成7年審判第9613号事件として審理したうえ、平成9年2月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年2月24日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

画面に表示する文字のドットパターンデータを格納するROMと、該ROMから読出したドットパターンデータを画面表示用のデータに変換する出力回路とを備えた表示装置において、前記ROMは、ユーザ用の第1ドットパターンデータと、前記出力回路が出力するデータのテストに用いる第2ドットパターンデータとを有することを特徴とする表示装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭54-142937号公報(以下「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例の記載事項の認定、本願発明と引用例発明1との相違点の認定及びその判断(審決書6頁20行~13頁4行中、9頁20行の「結局、・・・」から10頁5行まで、11頁3行の「前記ROMが、・・・」から同6行の「有する」まで、及び12頁4行から同6行までを除く部分)は、いずれも認める。

審決は、本願発明の内容を誤認した結果、本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤る(取消事由1)とともに、本願発明の有する特別顕著な作用効果を看過したものである(取消事由2)から、違法として取り消されなければならない。

1  一致点の誤認(取消事由1)

本願発明は、ユーザ用の第1ドットパターンデータと、出力回路の出力データのテスト用の第2ドットパターンデータとをROMに有するものであり、この第2ドットパターンデータは、ROMから読み出されたドットパターンデータを画面表示用のデータに変換する前記出力回路について、それが出力するデータのテストに用いられるものであって、CRT等のディスプレイ装置のテストを行うためのものではない。

すなわち、本願発明は、「ROM」及び「出力回路」を構成要素とし、ディスプレイ装置に出力を供給するための回路構成に係る表示装置に関するものであり、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載では明確ではないものの、出力回路が出力するデータについて、そのデータを比較判定検査装置(テスタ)に入力することによってテストを行うものであり、いわばデータそのものを表示することなく直接テストするものである。

これに対して、引用例発明においては、ディスプレイ装置にエラー認識用としての格子パターンを表示することにより、ディスプレイ装置(CRT)の色ずれ調整及びリフレッシュメモリ等のチェックを行うものであり、リフレッシュメモリがディスプレイ装置の表示リフレッシュのためのものであることを考えると(甲第2号証4頁右上欄15行以下)、これらは、いずれもディスプレイ装置の表示動作のチェックに係るものであるといえる。すなわち、引用例発明は、出力回路の出力データがディスプレイ装置に供給され、その結果、ディスプレイ装置で表示された色ずれ調整を行うものであり、出力回路自体のチェックを行う本願発明とは、明確に相違する。

審決では、出力回路から出力されたデータをディスプレイ装置でテストすることにより、結果的に出力回路のデータのチェックも行われると解しているものと思科されるが、誤りである。すなわち、このような解釈によれば、ディスプレイ装置に表示されるユーザ用の第1ドットパターンによっても出力回路のデータのチェックが行われることになってしまい、本願発明においてユーザ用の第1ドットパターンとは別に出力回路が出力するデータのテストに用いる第2ドットパターンを有する意義が全く没却されるのである。この第2ドットパターンの意義は、本願発明の明細書における発明の詳細な説明に明確に記載されている。

したがって、審決が、本願発明と引用例発明の一致点に関して、「引用例における色ずれ調整のテストにむくドットパターンデータとは、本願発明の『第2ドットパターンデータ』と同じく、出力回路が出力するデータのテストに用いるドットパターンデータであるという点で両者間に差は認められない。」(審決書9頁20行~10頁5行)、「本願発明(前者)と引用例に記載された発明(後者)は、『・・・前記ROMが、・・・前記出力回路が出力するデータのテストに用いるドットパターンデータとを有する表示装置』である点で一致し」(審決書10頁18行~11頁6行)と認定したことは、いずれも誤りである。

2  顕著な作用効果の看過(取消事由2)

本願発明は、出力回路が出力するデータのテストに用いる固定データである第2ドットパターンデータを文字ROMに格納している。そのため、出力回路の動作が正常か否かをテストする場合には、ユーザごとに第1ドットパターンが異なっていても、その第1ドットパターンと無関係に、第2ドットパターンデータに対応する単一のテストプログラムを用いればよく、ユーザ用の第1ドットパターンデータのそれぞれに対応するテストプログラムを作成し直す必要がなく、テストプログラムの標準化が可能となり、表示装置の開発期間を短縮できるという顕著な効果を奏する。

また、第1、第2ドットパターンデータが、同一の文字ROMに記憶されて同じプロセスで形成されているため、第2ドットパターンデータを用いて出力回路の動作をテストした場合、これが正常であれば、第1ドットパターンデータ及び文字ROMも正常とみなすことができ、表示RAMのテストも行える等の優れた効果を奏する。

本願発明の有するこれらの特別顕著な作用効果は、引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではなく、審決は、本願発明のこのような作用効果を看過したものである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願発明は、文字ROMに格納されたテスト用の第2ドットパターンデータが、ユーザによらず固定であるので、例えば文字の色、位置等の文字の形と無関係な項目のテストに際して、テスト用の第2ドットパターンデータを用いることにより、文字ROMの第1ドットパターンデータに依存しないテストを行うことができるというものである。そうすると、本願発明の第2ドットパターンデータは、ユーザごとに異ならない固定されたドットパターンデータであるといえる。

また、本願発明では、出力回路の出力がディスプレイ装置(CRT)に加えられているから、出力回路が正常に機能していなければ所定の表示を行えないので、ディスプレイ装置の表示テストを行うことにより、結果的に、出力回路自体のチェックも行われているものであるが、本願明細書には、文字ROMから出力されたドットパターンデータをシリアルデータに変換して、1ラインごとにドットパターンデータを画面に出力する出力回路をテストすることは、記載されていない。さらに、本願発明の要旨の一部である「出力回路が出力するデータのテスト」という表現が、出力回路自体が正常に機能しているか否かテストすることのみを指しているものでないことは、文理上も明らかである。

そうすると、本願発明の「出力回路が出力するデータのテストに用いる第2ドットパターンデータ」は、原告主張のように「出力回路自体をテストする」ものに限定されるわけではなく、表示装置の文字の形と無関係な項目のテストに用いられるものであればよく、引用例発明の色ずれ調整のテストにむくドットパターンデータと共通するものである。

したがって、審決の一致点に関する認定(審決書9頁20行~10頁5行、11頁4~6行)に、誤りはない。

2  取消事由2について

引用例発明においても、本願発明の文字ROMに相当するパターンジェネレータには、色ずれ調整のテストにむくドットパターンデータが文字のドットパターンデータとは別に設けられているのであるから、この色ずれ調整のテストにむくドットパターンデータが、固定的なものでよいことは明らかである。そうすると、引用例には、テストプログラムについて明示の記載はないが、ドットパターンデータを表示させて表示装置をテストする場合に用いるテストプログラムは、表示させるドットパターンデータに対応したものであるから、ユーザごとの文字の形に関係のない色ずれ等の項目のテストをするときに用いるプログラムは、当然、固定的なドットパターンデータに対応したものとなる。

したがって、原告が主張するように、出力回路の動作をテストする場合、ユーザごとの第1ドットパターンデータと無関係に、第2ドットパターンデータに対応する単一のテストプログラムを用いればよく、第1ドットパターンデータのそれぞれに対応するテストプログラムを作成し直す必要はないから、その標準化が可能となり、表示装置の開発期間を短縮できるという本願発明の作用効果は、特別顕著なものといえない。

また、本願発明においては、第1、第2ドットパターンデータがともに同一の文字ROMに記憶されていても、文字ROMが単一のROMチップにより構成されるものに限定されてはいないから、複数のROMチップにより文字ROMを構成しているものでもよいことは明らかである。そして、第1、第2ドットパターンデータを複数のROMチップにどのように配置するかに関しては限定がないから、第1、第2ドットパターンデータが、同じプロセスで文字ROMに形成されているとは必ずしもいえない。

したがって、原告が本願発明の効果として主張する、第2ドットパターンデータを用いて出力回路の動作をテストした場合に正常であれば、第1ドットパターンデータも正常とみなすことができるという効果は、本願発明の構成から常に生ずるものとはいえない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点の判断誤り)について

審決の理由中、本願発明の第2ドットパターンデータが、「出力回路が出力するデータのテストに用いられるテスト用のドットパターンデータを意味し、具体的には、文字の形と無関係な項目のテストに用いられるテスト用のドットパターンデータを意味している」(審決書9頁2~6行)のに対し、引用例発明のテスト対象のうち「色ずれ調整のテストにおいては、それに適切なドットパターン、即ち格子状の絵を用いており、色ずれは文字の形と無関係なテスト項目に属するもの」(審決書9頁17~20行)であり、引用例発明のパターンジェネレータには、「色ずれ調整といったテスト用のドットパターンデータも格納されている」(審決書10頁10~11行)ことは、いずれも当事者間に争いがない。

そうすると、引用例発明における色ずれ調整のテスト用のドットパターンデータは、本願発明の第2ドットパターンデータと同様に、文字の形とは無関係な項目のテストに用いられるドットパターンデータであり、この点に関して両者に相違はないものと認められる。

原告は、引用例発明の色ずれ調整のテスト用パターンは、CRT等のディスプレイ装置の表示動作のチェックに係るものであり、本願発明のように、出力回路が出力するデータのテストに用いられるものではないと主張する。

この点に関して、引用例発明が、パターンジェネレータ及びパラレル/シリアル変換回路等から成り、このパターンジェネレータが、本願発明の「画面に表示する文字のドットパターンデータを格納するROM」に相当すること、パラレル/シリアル変換回路が、「ROMから読出したドットパターンデータを画面表示用のデータに変換する出力回路」に相当すること(審決書7頁2~18行)は、いずれも当事者に争いがない。

そうすると、引用例発明において、CRT等のディスプレイ装置に出力されるデータは、本願発明の文字ROMに相当するパターンジェネレータから読み出され、本願発明の出力回路に相当するパラレル/シリアル変換回路により画面表示用のデータに変換されて出力されるものであるから、色ずれ調整のテスト用パターンがテストの対象とするデータは、本願発明と同様に、出力回路が出力するデータであると認められ、原告の上記主張は採用できない。

したがって、審決が、本願発明と引用例発明の一致点に関して、「引用例における色ずれ調整のテストにむくドットパターンデータとは、本願発明の『第2ドットパターンデータ』と同じく、出力回路が出力するデータのテストに用いるドットパターンデータであるという点で両者間に差は認められない。」(審決書9頁20行~10頁5行)と認定したことに、誤りはない。

また、原告は、本願発明は、出力回路が出力するデータについて、そのデータを比較判定検査装置(テスタ)に入力することによってテストを行うものであり、いわばデータそのものを表示することなく直接テストするものであるから、表示画面上でテストを行う引用例発明とは相違すると主張する。

しかし、本願発明の要旨において、出力回路が出力するデータのテストを第2ドットパターンデータを用いてどのように行うかの具体的構成は開示されておらず、この点に関して、本願明細書(甲第3、第5及び第7号証)には、従来例として、「出力回路3は文字ROM1から出力されたドットパターンデータ11をシリアルデータに変換して1ライン毎にドットパターンを画面に出力する。上述の動作が、水平同期信号、垂直同期信号毎に繰り返し行われ、画面に文字が表示される。」(甲第3号証明細書3頁12~16行)と記載され、本願発明の実施例として、「出力回路3では第1ドットパターンデータ11を1ラインづつのシリアルデータに変換して画面に出力する。」(同6頁5~7行、甲第5号証手続補正書2頁7~8行)と記載されているが、出力回路が出力するデータを比較判定検査装置に入力することによりテストを行うことなどは、全く記載されていない。

以上のとおり、本願発明の要旨では、出力回路の出力するデータをどのようにテストするかは限定されておらず、本願明細書においては、出力回路から出力されたデータを画面から成るディスプレイ装置に供給していることが開示されているものと認められるから、本願発明がディスプレイ装置に出力回路の出力データを供給し、同装置においてテストを行うことを排除していないことは明らかである。これに対し、出力回路の出力データを比較判定検査装置に入力してテストを行うことについては、本願明細書及び図面のいずれにも記載が認められず、その示唆すらないのであるから、原告の上記主張は、到底採用することができない。

さらに、原告は、審決が、本願発明で出力回路から出力されたデータをディスプレイ装置でテストすることにより、結果的に出力回路のデータのチェックも行われると解釈したことは誤りであり、このような解釈によれば、ディスプレイ装置に表示されるユーザ用の第1ドットパターンによっても出力回路のデータのチェックが行われることになるから、本願発明においてユーザ用の第1ドットパターンとは別に、出力回路の出力データのテスト用の第2ドットパターンを有する意義が没却されると主張する。

しかし、審決は、前示の本願発明の要旨に従って、第2ドットパターンにより出力回路の出力データのテストが行われると認定するものであり、出力回路の出力データをディスプレイ装置でテストすることから出力回路のデータのチェックも行われると解釈したものでないことは、明らかであるから、原告の上記主張は、その前提を誤っており、その余の点につき検討するまでもなく採用できない。

したがって、審決が、本願発明と引用例発明との対比において、「『・・・前記ROMが、・・・前記出力回路が出力するデータのテストに用いるドットパターンデータとを有する表示装置』である点で一致し、」(審決書11頁3~6行)と認定したことにも、誤りはない。

2  取消事由2(顕著な作用効果の看過)について

原告は、本願発明において出力回路の出力データをテストする場合、ユーザごとに第1ドットパターンが異なっていても、その第1ドットパターンと無関係に、第2ドットパターンデータに対応する単一のテストプログラムを用いればよく、第1ドットパターンデータのそれぞれに対応するテストプログラムを作成し直す必要がないから、テストプログラムの標準化が可能となり、表示装置の開発期間を短縮できるという顕著な効果を奏すると主張する。

ところで、引用例発明では、前示のとおり、本願発明の文字ROMに相当するパターンジェネレータに、文字の形等のドットパターンデータと色ずれ調整のテストのためのドットパターンデータとが格納されていること(審決書10頁6~12行)、引用例発明における色ずれ調整のテストでは、それに適切なドットパターン、すなわち格子状の絵を用いており、色ずれは文字の形と無関係なテスト項目に属するものであること(審決書9頁17~20行)は、当事者間に争いがない。

そうすると、引用例発明においても、ドットパターンデータを表示させて表示装置をテストする場合、文字の形に関係のない項目については、ユーザごとに設定されたドットパターンデータとは異なる、格子状の絵のような固定的なデータを用いてテストを行っており、原告が主張する本願発明の効果、すなわち、ユーザごとのドットパターンと無関係な固定的なドットパターンデータを設定し、これに対応する単一のテストプログラムを用いることができるという作用効果は、当業者にとって、引用例発明から容易に予測することが可能であるといえる。

また、原告は、本願発明において、第1、第2ドットパターンデータが同一の文字ROMに記憶されているため、第2ドットパターンデータを用いて出力回路の動作をテストした場合、これが正常であれば、第1ドットパターンデータ及び文字ROMも正常とみなすことができる等の優れた効果を奏すると主張する。

しかし、引用例発明でも、前示のとおり、本願発明の文字ROMに相当するパターンジェネレータに、文字の形等のドットパターンデータと色ずれ調整のテストのためのドットパターンデータとの双方が格納されており、本願発明と同様に、この2つのドットパターンデータが同一のROMに記憶されているものと認められる。

そうすると、引用例発明においても、色ずれ調整のテスト用パターンデータを用いてテストを行えば、当然に、原告が主張する本願発明の作用効果と同様の作用効果を奏するであろうことは、当業者にとって、容易に予測できる範囲内のことといえる。

したがって、本願発明が格別の作用効果を有するとの原告の主張はいずれも採用できず、審決が、「本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到しえたものと認めざるを得ない。」(審決書12頁4~6行)と判断したことに、誤りはない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第9613号

審決

東京都千代田区丸の内2丁目2番3号

請求人 三菱電機株式会社

大阪府大阪市中央区釣鐘町2丁目4番3号 河野特許事務所

代理人弁理士 河野登夫

昭和63年特許願第280592号「表示装置」拒絶査定に対する審判事件(平成2年5月15日出願公開、特開平2-126287)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

1.本願発明

本願は、昭和63年11月7日の出願であって、その特許を受けようとする発明(以下、「本願発明」という)は、補正された明細書の記載からみて、平成7年5月16口付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「画面に表示する文字のドットパターンデータを格納するROMと、該ROMから読出したドットパターンデータを画面表示用のデータに変換する出力回路とを備えた表示装置において、

前記ROMは、ユーザ用の第1ドットパーターンデータと、前記出力回路が出力するデータのテストに用いる第2ドットパターンデータとを有することを特徴とする表示装置。」

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された特開昭54-142937号公報(以下、引用例という)には、デイスプレイ装置の故障診断方式について記載されており、

<1>「5.画面上の表示と対応する表示情報を記憶する読出し、書込み可能なリフレツシュメモリと、キーボード上に設けられ、外部計算機に割込信号を与えるために設けられてなるフアンクションキーと、計算機との接続関係がリモート状態かローカル状態かの区別を行わせるための切換スイッチ手段とを備えたデイスプレイ装置に於いて、上記ローカル状態に切換えられている時に…フアンクションキーの指示に従い、色ずれ調整パターンを表示するコードを発生させ、…書き込み第2のリード・コンペアチエックを行うようにしたデイスプレイ装置の故障診断方式。」(特許請求の範囲第5項)、

<2>「表示画面上の色ずれの調整は、デイスプレイがCRTによる時、その配置場所などの相異によつて必要となる。この色ずれ調整のために適切なパターンを画面一杯に表示する。…本発明では、メモリ自身の書き込み、読み出しのチエックを行いつつ表示させることにしている。従って、色ずれ調整用パターンの表示が途中で止まれば、メモリのアクセスにエラーのあったことになり、エラー原因のメモリーの場所と、エラーがあったことを容易に知ることができる。メモリのチエック処理に対しては、1つのパターンを用いるのみでは、故障データがその値に固定されている場合もあるため、…両信号でチエックを行なう方式で、効果をあげている。チエックすべき他の重要な点は、デイスプレイ装置がマイクロプログラム制御による時、そのプログラムエリアのメモリもチエックできることである。このメモリはリード・オンリー・メモリであることが普通で、リフレツシュ・メモリの如きリード、ライトのチエックは行なえない。全プログラムエリアのメモリを全加算し、その結果のみを比較して正常か否かを判定するものである。」(第3頁左下欄第13行目~右下欄第18行目)、

<3>「第2図は、デイスプレイ装置に、CRT110を用い、リフレツシュ・メモリ100、101および102と3ユニット分がある。これらの出力を混合(合成)回路109によつて1つのCRT110に重ね合わせて表示する例である。リフレツシュメモリ100から表示リフレツシュのために読み出された表示文字コードは、データ線131を介し、パターン・ジェネレータ103に入力され、パターンのドット信号に変換されてデータ線に132を介し、パラレル/シリアル変換回路106に入り、輝度信号となって、信号線133を介して合成回路109に入力される。信号線133は、カラー表示であれば、例えば、赤、緑、青の3原色を示す3本となる。」(第4頁左上欄第15行目~右上欄第8行目)、

<4>「…、リフレツシュ・メモリに表示リフレツシュの読み出しアドレスを与える。」(第4頁左下欄第20行目~右下欄第1行目)」、

<5>「フロー424に示された色ずれ調整のためのドットパターンは、その画面表示を第11図に示している。第11図の(a)は、表示画面500の全体であり、色ずれ調整にむく格子状の絵を表示している。」(第6頁右下欄第11~15行目)、

<6>「更に本発明によれば、画面への色ずれ調整パータンの表示という処理と同時に、リフレツシュメモリのリード/ライト/コンベア・チエックが行なわれ、少ないプログラム容量で、最も大きなチエックができた効果がある。更に本発明によれば、プログラム・メモリの如き読み出し專用メモリに於ても、最も少ない容量で、容易な形で、チエックを実現した効果がある。更に特に重要なことはホスト計算機側のミス(プログラム作成ミス、CPUそのものの故障)とCRT側のミスとの区別を明確にできた。」(第8頁右下欄第1~12行目)、

<7>「本発明の他の応用は、リフレッシュメモリが、トレンド・グラフ・メモリや、文字コード・メモリあるいはグラフイック・コマンドメモリであっても、リフレッシュ・メモリに属すれば、全く同様にして、適用され、効果が得られる。更に、診断対象もメモリ以外にも可能である。」(第9頁左上欄第3~8行目)という記載がある。

3.対比・判断

本願発明と引用例に記載された発明を対比すると、

引用例の第2図及び上記記載<3><4>によれば、引用例における「パターンジェーネレータ103」は、リフレツシュメモリ100から読み出された表示文字コードが入力されてくると、パターンのドット信号に変換してデータ線132に送り出す機能を有するものであるところから、本願発明における「画面に表示する文字のドットパターンデータを格納するROM」に相当しており、

上記記載<3>によれば、引用例における「パラレル/シリアル変換回路106」は、パターンジェネレータ103により変換されてデータ線132を介して送られてきたパターンのドット信号をパラレル/シリアル変換して出力する機能を有するものであるところから、本願発明における「ROMから読出したドットパターンデータを画面表示用のデータに変換する出力回路」に相当していると認められる。

そして、本願発明では「第1ドットパターンデータ」、「第2ドットパターンデータ」という用語を用いているが、これらの用語については、明確な定義がなされていないので、本願明細書中の「文字ROMは文字の表示データとしてユーザ用の第1ドットパターンデータ11及びテスト用の第2ドットパターンデータ12が格納されており、前記コードデータをアドレス情報として、前記タイミング信号に従い出力同路3に第1ドットパターンデータ11を出力する。」、「文字ROM1は表示RAM2から出力されたコードデータをアドレス情報として用い、そのコードデータに対応した第1ドットパターンデータ11を出力回路3に出力する。」、「文字ROM1のうち、第1ドットパターンデータ11がユーザによってその内容が異なるのに対して、テスト用の第2ドットパターンデータ12はユーザによらず固定であるので、テスト時に例えば文字の色.位置等の文字の形と無関係な項目のテストにテスト用の第2ドットパターンデータ12を用いることにより、文字の第1ドットパターンデータ11に依存しないテストを行うことができる。」といった記載内容に基づいてその意味を判断すると、

「第2ドットパターンデータ」とは、出力回路が出力するデータのテストに用いられるテスト用のドットパターンデータを意味し、具体的には、文字の形と無関係な項目のテストに用いられるテスト用のドットパターンデータを意味していると理解でき

又、「第1ドットパターンデータ」とは、具体的には、文字の形等のドットパターンデータであって、ユーザ用のものを意味していると理解できる。

ところで、引用例の第5~12図及びその説明からも明らかなとおり、引用例におけるテスト対象はリフレッシュメモリを初めとしてメモリ以外の対象においても適用可能な広範囲な故障診断方式(テストと同義)から構成されており、そのテストのうちの色ずれ調整のテストにおいては、それに適切なドットパターン、即ち格子状の絵を用いており、色ずれは文字の形と無関係なテスト項目に属するものであるところから、結局、引用例における色ずれ調整のテストにむくドットパターンデータとは、本願発明の「第2ドットパターンデータ」と同じく、出力回路が出力するデータのテストに用いるドットパターンデータであるという点で両者間に差は認められない。

更に、引用例の上記記載<2><5><6>によれば、「パターンジェネレータ103」は、文字の形等のドットパターンデータをそのROM中に格納しているもの、即ち「キャラクタジェネレータ」であるのみならず、色ずれ調整といったテスト用のドットパターンデータも格納されているものと認められる。

又、上記記載<1>によれば、切換スイッチで、ローカル状態に切り換えられた状態では、スタンドアロンという点で、本願発明の「表示装置」と、引用例記載発明の「ディスプレイ装置」とは等価であると認められる。

してみると、本願発明(前者)と引用例に記載された発明(後者)は、「画面に表示する文字のドットパターンデータを格納するROMと、該ROMから読出したドットパターンデータを画面表示用のデータに変換する出力回路とを備えた表示装置において、前記ROMが、文字の形等のドットパターンデータと、前記出力回路が出力するデータのテスートに用いるドットパターンデータとを有する表示装置」である点で一致し、下記の点で相違しているものと認める。

前者では、ROMに格納される文字の形等の「第1ドットパターンデータ」がユーザ用のものであるのに対し、後者では、そのように特定していない点。

次に、上記相違点について検討する。

引用例においては、文字の形等のドットパターンデータが、ユーザの希望を盛り込んだユーザ用のドットパターンデータとなっているか汎用のドットパターンデータとなっているかについては記載するところがないが、文字パターンデータをユーザの希望を盛り込んだユーザ固有のものとする程度のことは、従来から、文字の形等のフォントにもいくつか代表的なものが知られていることからもわかるように、当業者がユーザの希望により適宜なしうることにすぎず、技術的にみて何ら困難性があったとすることはできない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到しえたものと認めざるを得ない。

{尚、第2ドットパターンデータを、請求人が主張するように製造者のテスト用のものであると理解することは、当初明細書中に、このような記載が全くないところから、到底できないことであるが、従来からパーソナルコンピュータのディスプレイ装置の画面に表示される文字、図形等が見易いことは必要条件であるところから、その製造時や保守時の画面調整、試験は重要な工程となっている為、CRTにテストパターンを表示させてそのボケ、歪み、脱落等を目視チェックにより行っていることは、常套手段であり(必要あらば、特開昭58-224379号公報を参照。)、この場合におけるテストパターンデータとは製造者や保守作業者に專用のものであると認められ、さらに、このようなテストパターンデータがROM中に格納されていることも技術常識であると認められる。(必要あらば、特開昭58-224379号公報、特開昭54-44441号公報を参照。)}

4.むすび

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年2月6日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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